【分析情報】IPOの吸収金額と初値騰落率の関係について
●吸収金額の概説
吸収金額とは、IPOの銘柄が上場に際して公開する株式数と発行価格を掛けたもので、市場からIPOに投資する金額(IPO株が市場から吸収する金額)です。
IPOの銘柄の公開する株式とは、以下の3つになります。
・上場に際して新たに発行する株式。
・上場前の株主が売り出す株式。
・証券会社が上場前の株主から借りるオーバーアロットメント(OA)。
吸収金額は、IPOの銘柄が上場した際に初値上昇に大きく影響を与えます。
そのため、IPOの初値の評価を行う上で重要なファクターとなります。
下図は、2016年のIPOのデータをまとめたもので、IPOの初値騰落率と吸収金額の関係を表したものです。吸収金額の規模が小さくなるのに従って初値が上昇しやすくなっています。
※JR九州及びLINEなど100億円以上のは規模が大き過ぎるため非表示にしています。
●吸収金額の勝率・騰落率分析
IPOの初値の評価を行う上で評価のパラメータを区分する必要があるので、上図のデータを初値勝率と初値騰落率に分けて、数値データとして見ていきます。
以下は、評価の対象である吸収金額の区分毎に初値の勝率を算出した値です。
区分 | 上場数 | 初値上昇社数 | 勝率(%) | 初値騰落率(%) |
---|---|---|---|---|
5億円以下 | 25 | 25 | 100.0 | 183.1 |
5~10億円 | 42 | 42 | 100.0 | 153.1 |
10~15億円 | 36 | 32 | 88.9 | 84.3 |
15~20億円 | 12 | 11 | 91.7 | 55.1 |
20億円超 | 57 | 38 | 66.7 | 22.3 |
このように、吸収金額によって初値が公募価格を上回るか下回るかという境界線が明確になり、IPOの初値の評価を行う上で非常に有用性が高くなります。
吸収金額が10億円以下のものでは、初値の勝率が100%という結果があり安全圏といえるでしょう。
吸収金額が10億円を超えるものについては、勝率が約90%ほどに低下することがわかります。
20億円を超えると勝率はさらに低下し約67%となります。20億円超のIPOというのは非常にリスクが高く、IPOの申込には覚悟が必要になりますね。
吸収金額は、IPOの初値勝率だけでなく、騰落率にも大きく影響しています。
上記の表にあるように吸収金額の規模によって初値騰落率に大きな違いがあるとわかります。
5億円以下では約183%、10億円以下も約153%となり初値騰落率の高さが伺えます。
10億円を超えるものでは初値騰落率が約80%以下まで低下し、20億円を超えるものでは、約20%ほどまで低下しています。
※吸収金額の他にもIPOの初値に影響する成長力やロックアップ、業種人気などのパラメータがあり、これらもチェックする必要があります。
※IPOにおける成長力の影響のまとめはこちらです。
※IPOにおけるロックアップの影響のまとめはこちらです。
※IPOにおける業種人気の影響のまとめはこちらです。
●吸収金額が初値に与える影響の考察・まとめ
これらのデータを踏まえると、IPOでリスクを抑えて初値上昇を狙う場合は、吸収金額の規模が小さいほど初値の勝率及び騰落率が高く、IPOの投資での利益が高いものと考えられます。しかし、吸収金額規模が小さいものほど申込者も多数になるため、当選確率が低くなります。
リスクを取り、吸収金額が大きいものほど当選確率も高くなりますが、リスクを取ったとしても20億円以上のIPO株への申し込みは、初値の勝率及び騰落率が低くなるためIPOへの投資においてリスクの取りすぎと言えるかもしれません。
吸収金額の規模によってIPOの初値上昇が左右される理由としては、需給のバランスから考えると、吸収金額と同等程度の買い手の資金が集まって初めて発行価格を維持できると考えられるため、吸収金額の規模が大きいものほど買い手の資金も必要になってくることから、買い手がつきにくくなり初値高騰が困難となります。
また、吸収金額の規模が小さいものほど流通株式の1株あたりの持株比率(1株/流通株式)が高くなり、それに伴って1株あたりの価値が高くなるため、セカンダリーマーケット(上場後の市場)においても注目及び資金が集まりやすくなることで、初値が上昇しやすいものと考えられます。
吸収金額は、IPOの投資を行う上で良否の判断をしやすいパラメータではありますが、吸収金額だけで全ての銘柄が判断できるわけではありません。
そこで、当サイトではこの吸収金額というパラメータを初値上昇の要素の一つとして評価し、初値騰落率の予想を行っています。