【分析情報】IPOの株価収益率(PER)と初値騰落率の関係について
●株価収益率の概説
株価収益率とは(PERとは)、収益(1株あたりの純利益)に対する株価の倍率を表したもので、株価の割安性を判断するためのものです。PERという値が小さいほど株価が割安になります。
PERの計算式は以下になります。
PER=株価/1株あたりの純利益
または
PER=時価総額/純利益
となります。
※時価総額とは、株価と発行済み株式総数をかけたものです。
このPERという指標は、IPOの投資においても同じように見ることができます。
IPOのPERは以下の式で表すことができます。
PER=公募価格*(公募株式+上場前発行済み株式総数)/前期純利益
PERは、時価総額が1年間の純利益の何倍かを見るものであり、現在の純利益を維持した状態で、投資資金を何年で回収できるかという指標になります。
たとえば、PERが10であれば、投資した資金を企業が稼ぐためには10年かかるということです。PERが100であれば、投資資金の回収に100年もかかるという途方もない話になります。ちなみに日本を代表する企業225社から算出した指標、日経平均(日経225)のPERは14~16ほどとなっています。
また、PERが表示されていない場合、あるいはマイナスの値の場合がありますが、これは、前期純利益がマイナスの値、赤字だったということを意味しています。
例えばPERが-100であれば、-100年で投資資金を回収できるという、意味が通らない指標になります。つまり、PERがマイナスの場合は意味のない指標になります。しかし、マイナス方向にPERの数値が大きければ大きいほど投資資金に対する赤字の割合は小さいとも言えます。
PERがマイナス値の場合は、PER=時価総額/純利益の式から以下で表で表せます。
時価総額 | 純利益 | PER |
---|---|---|
1億円 | -1千万円 | -10 |
1億円 | -1億円 | -1 |
1億円 | -10億円 | -0.1 |
●IPOの投資におけるPERの影響
さきほど話に上がったPERが100というのは割高と判断されるのが通常ですが、IPOではPERが100という途方もない数字は珍しくはありません。
下図は、初値騰落率とPERの関係を表したものです。
2016年の上場会社83社の中でPERが100を超えたものは8社(約10%)あります。
初値騰落率は、8社平均で98.4%と高騰しています。
※前期純利益が赤字のものは、非表示にしています。
また、IPOにおいてPERが100以上の上場会社は8社ですが、PERが20以上の上場会社で言えば52社と非常に多く、52社平均の初値騰落率は93.7%とPERが100以上の上場会社とさほど変わりません。
逆にPERが20未満の上場会社は28社あり、初値騰落率が31.2%と低い値を示しています。
下図は、先ほどのグラフの横軸を狭めたものです。
IPOのPERが高い理由としては、上場する会社が成長企業の多いマザーズやJASDAQに多く上場し、PERが高くても今後の企業成長を見越した買いが入るためと考えられます。
そのためIPOでは、PERが高いから割高だと判断され買いが入らず初値は上昇しない、という考え方が適用できないことになります。
●PERが初値に与える影響のまとめ
PER(株価収益率)とは、株の割安性、割高性を把握するためにはとても重宝できるものです。ですが、成長企業の多いIPOに限って言えば、高PERだから初値上昇しない、低PERだから初値上昇しやすいと言ったことはなく、初値予想値の評価を誤る原因となってしまうかもしれません。
IPOにPERが全く影響しないとは断言しませんが、本文で述べた前期純利益ベースのPERでは、初値上昇に対して追風か逆風かの違いはさておき、微風程度に考えておくのが良いかもしれません。
※本文は2016年のIPOのデータを基に作成したものです。
また、余談になりますが、PERの計算に前期純利益を使用せず、代わりに進捗純利益(直近四半期までの当期純利益)を使用した場合、若干の傾向が見られました。
PERが30ほどで初値騰落率が最も高く出ているように見受けられます。
当サイトでは、株価収益率はIPOの初値予想の評価式には組み込まれていませんが、進捗純利益などで初値予想ができそうだと判断した場合には、初値予想の評価式に割安性の項目を追加し、初値予想を行っていきます。